松戸市を含めJR常磐線沿線都市は交通の利便性に加え、東京芸大や千葉大といった大学が立地したところである。平成18年に設立された「JOBANアートライン」事業は、沿線の各自治体が、地域をより魅力あるものとするための芸術・文化の振興、またアートを媒体に、地域に眠る文化的資源を活用した新たな街づくり、コミュニティー再生を目的とした地域活性化のプログラムである。すでに取手市では、平成12年より「取手アートプロジェクト」を立ち上げ、市民・行政・大学・地元企業連携による独自な文化政策を推進し、全国にその活動を発信してきた。松戸市も遅ればせながら、平成20年に提案した景観基本計画・基本方針のなかに「芸術・創造性の豊かな景観づくり」を盛り込み、市民が身近に芸術に接する機会を通じて、景観に対する感性や創造性を育み、本市ならではの価値ある景観づくり推進に取り組むこととなっている。
今回この「松戸アートラインプロジェクト」は、「JOBANアートライン」事業の一環として行われたものであり、沿線自治体のアートを基調とした線的連携を図り、今後の松戸市の文化政策・地域活性化プログラムの出発点として実践されたプロジェクトである。
松戸駅西口周辺で展開された「松戸アートラインプロジェクト」展は、多様な意味を含む「森」をテーマに、約一ヶ月間開催された。展示会場には、駅前とはいえ現在使われていない店舗や閉じられたままの民家、デパートの屋上や神社の境内、市内を流れる坂川デッキや倉庫・旧校舎などが用意され、31組のアーティストが様々な環境・場で、作品の公開制作からインスタレーション、映像からパフォーマンスと、多彩な表現・活動を創出した。アーティストの選出は、一部招待作家を除き一般公募が行われ、100案を超える応募作品の中から厳正に選ばれた作家たちが、場の特徴を取り込み、空間の持つ文化的・機能的意味とも連続しながら、サイトスペシィフィック・ワーク(場に合った作品)を制作した。また、松戸はかつて水戸街道の宿場町として栄えたところであり、旧街道沿いには歴史的建造物も点在する。総合企画の中には松戸の魅力発見とし、地元在住の伝統工芸師によるワークショップや街歩きも行われ、普段出会えない伝統文化の妙味や、歴史的景観の確認、さらにはアート作品を通して見えてくる日常の再発見を、新鮮な経験として感じていただけたことだろう。シンポジウムでは、アートディレクターである北川フラム氏に参加を願い、「アートプロジェクトと街づくりの可能性」について語っていただき、展覧会期間中にも講師を招き、一般市民対象の「まちなかアート公開講座」を開き、松戸の近代美術や景観デザイン、アートの楽しみ方から環境芸術まで、多方面にわたるリレートークが行われた。
人口48万の松戸市は、都心へ通勤・通学する人たちへの、ベットタウンとしての需要にこたえてきた。大都市東京に寄りかかるかたちで、これまで美術館やアートセンターといった施設も開設されず、文化的独自性も必要とされない、典型的グレーゾーン化したハイブリッドな郊外都市である。従って市民自身の意識も、松戸固有の文化や歴史・伝統・芸術への関心は薄く、地元への愛着や誇りを持てないでいるのが現状のようだ。ただ海外の事例をみても、文化的創造力の希薄な都市は滅びていくという認識は深まりつつある。現代が精神的安定性を欠いた時代に、芸術・文化の果たすべき社会的役割を考える上で、表現活動を多様な社会の関係性と共振させる取り組みは重要であり、住民の地域への関心や理解、誇りや愛着を取り戻す為にも、創造的文化政策は必要不可欠なのである。
アートには本来その土地の持つ潜在能力をかぎ分ける特殊な力がある。地域とアートの新たな関係として、今回「松戸アートラインプロジェクト」が投げかけたものは、現在松戸が喪失しつつある固有性の確認である。無数に眠る地域の個性を再度見直し、そこから新たな可能性が見出せないかを探ること、それは改めて日常性を注意深く立ち止まって観察することから始まるのだ。さらにアートには人と人を繋げる力があり、地域住民との協働による新たな人間関係、世代や国籍を超えた人々の結び付きの可能性である。作家やアートを媒体に、自分たちと異なる文化や感性に触れ時間や場所を共有することで、多様な価値観を受け入れていく意識が生まれるのも、参加型アートの魅力であり、アートプロジェクトのダイナミズムなのだ。
展覧会は師走にかかるせわしい時期の開催であったが、街なかに仕掛けられた数々のアート作品が、訪れた多くの市民の記憶に残るものとなり、松戸について考えるきっかけづくりになったことを期待している。今後益々地域とアートの関係は広がりをみせ、地域文化の創造は人々の精神や意識の活性化に意義深いものとなっていくだろう。そのことからも、「松戸アートラインプロジェクト」が継続事業となり、松戸市内のあらゆる場所で、文化政策プロジェクトとして展開・発展されることを願っている。
末筆ながら、この度のプロジェクト実施にあたり多大のご支援・ご協力をいただいた地域関係者・ボランティアの皆様には、心より感謝いたします。
今回この「松戸アートラインプロジェクト」は、「JOBANアートライン」事業の一環として行われたものであり、沿線自治体のアートを基調とした線的連携を図り、今後の松戸市の文化政策・地域活性化プログラムの出発点として実践されたプロジェクトである。
松戸駅西口周辺で展開された「松戸アートラインプロジェクト」展は、多様な意味を含む「森」をテーマに、約一ヶ月間開催された。展示会場には、駅前とはいえ現在使われていない店舗や閉じられたままの民家、デパートの屋上や神社の境内、市内を流れる坂川デッキや倉庫・旧校舎などが用意され、31組のアーティストが様々な環境・場で、作品の公開制作からインスタレーション、映像からパフォーマンスと、多彩な表現・活動を創出した。アーティストの選出は、一部招待作家を除き一般公募が行われ、100案を超える応募作品の中から厳正に選ばれた作家たちが、場の特徴を取り込み、空間の持つ文化的・機能的意味とも連続しながら、サイトスペシィフィック・ワーク(場に合った作品)を制作した。また、松戸はかつて水戸街道の宿場町として栄えたところであり、旧街道沿いには歴史的建造物も点在する。総合企画の中には松戸の魅力発見とし、地元在住の伝統工芸師によるワークショップや街歩きも行われ、普段出会えない伝統文化の妙味や、歴史的景観の確認、さらにはアート作品を通して見えてくる日常の再発見を、新鮮な経験として感じていただけたことだろう。シンポジウムでは、アートディレクターである北川フラム氏に参加を願い、「アートプロジェクトと街づくりの可能性」について語っていただき、展覧会期間中にも講師を招き、一般市民対象の「まちなかアート公開講座」を開き、松戸の近代美術や景観デザイン、アートの楽しみ方から環境芸術まで、多方面にわたるリレートークが行われた。
人口48万の松戸市は、都心へ通勤・通学する人たちへの、ベットタウンとしての需要にこたえてきた。大都市東京に寄りかかるかたちで、これまで美術館やアートセンターといった施設も開設されず、文化的独自性も必要とされない、典型的グレーゾーン化したハイブリッドな郊外都市である。従って市民自身の意識も、松戸固有の文化や歴史・伝統・芸術への関心は薄く、地元への愛着や誇りを持てないでいるのが現状のようだ。ただ海外の事例をみても、文化的創造力の希薄な都市は滅びていくという認識は深まりつつある。現代が精神的安定性を欠いた時代に、芸術・文化の果たすべき社会的役割を考える上で、表現活動を多様な社会の関係性と共振させる取り組みは重要であり、住民の地域への関心や理解、誇りや愛着を取り戻す為にも、創造的文化政策は必要不可欠なのである。
アートには本来その土地の持つ潜在能力をかぎ分ける特殊な力がある。地域とアートの新たな関係として、今回「松戸アートラインプロジェクト」が投げかけたものは、現在松戸が喪失しつつある固有性の確認である。無数に眠る地域の個性を再度見直し、そこから新たな可能性が見出せないかを探ること、それは改めて日常性を注意深く立ち止まって観察することから始まるのだ。さらにアートには人と人を繋げる力があり、地域住民との協働による新たな人間関係、世代や国籍を超えた人々の結び付きの可能性である。作家やアートを媒体に、自分たちと異なる文化や感性に触れ時間や場所を共有することで、多様な価値観を受け入れていく意識が生まれるのも、参加型アートの魅力であり、アートプロジェクトのダイナミズムなのだ。
展覧会は師走にかかるせわしい時期の開催であったが、街なかに仕掛けられた数々のアート作品が、訪れた多くの市民の記憶に残るものとなり、松戸について考えるきっかけづくりになったことを期待している。今後益々地域とアートの関係は広がりをみせ、地域文化の創造は人々の精神や意識の活性化に意義深いものとなっていくだろう。そのことからも、「松戸アートラインプロジェクト」が継続事業となり、松戸市内のあらゆる場所で、文化政策プロジェクトとして展開・発展されることを願っている。
末筆ながら、この度のプロジェクト実施にあたり多大のご支援・ご協力をいただいた地域関係者・ボランティアの皆様には、心より感謝いたします。
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