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土屋公雄のブログ

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不思議な霧雨
昨年の冬、ギャラリーでの打ち合わせが突然変更となり、久しぶりに映画を見ることにした。渋谷の街をぶらつきながら、地下街の広告欄を見ていると、懐かしいアイルランドの風景と共に、カンヌ国際映画祭受賞、さらにケン・ローチ監督作品と記されたポスターが目に留まり、僕は何のためらいもなく、その上映館へと足を向けた。
映画の内容は、1920年代のアイルランド独立戦争から内戦へと移行する中での、コーク地方に住むある兄弟を中心とした、激動の時代を描いたものであり、イギリス人監督ケン・ローチが、いつの時代にも起こり得る悲劇とし、自国の帝国主義時代の暗部を、意図的に描いたものであった。ストーリーもさることながら、その場面場面の風景と、アイルランド地方独特の霧雨。シトシトと降り続く雨は体を芯から冷やし、ただ 雨もいつしか上がると、どこからともなく囀る鳥の声、そして草の匂い。この国を訪れた者なら誰もが体験することで、映画の中ではその感覚が随所に表現されていた。
映画も終わり外に出ると、渋谷の街はガスがかかったよう薄っすらと滲んでいた。二時間前には雨の気配もなかった街に、霧雨が降っていた。
アイルランド映画を見たことと喉の渇きから、急に僕はギネスが飲みたくなり、時折立ち寄る新宿のアイリッシュ・パブへと向かった。

四年前僕は、アイルランドのダブリンで展覧会をしたことがある。それは2002年、ブラジルのサンパウロ・ビエンナーレで個展をした折、その作品を見たアイリッシュのポール・マナハン氏が「是非、あなたの展覧会をダブリンで企画したい。」と申し出てくれ、翌年の2003年6月、彼がディレクターをする5thギネスハウス・ギャラリーで開催することとなった。展示会場となるギャラリーは、世界的ビール会社ギネスの本社内にある。ギネスは以前より現代美術のコレクターとして知られ、メセナ活動の一環としても、地域に開かれたノンプロフィットのギャラリーを持ち、アイリッシュの若手アーティストや海外の現代美術を紹介してきたのだ。
ギャラリーのフロアには、展示場以外にレストランやスタンド・パブもあり、いつでも新鮮なギネスが飲める。僕が制作・展示のため滞在していた約三週間、毎日のよう、朝・昼・晩と飲んでいた。ここだけの話、展覧会より本場のギネスを飲めることの方が楽しみだったのだ。

その日 新宿のアイリッシュ・パブは、大勢の外国人客で賑わっていた。
カウンター脇のテーブルでは、ギター、バンジョー、バイオリンが哀愁に満ちたアイリッシュ・フォークを奏でている。人々は立ちながら片手にギネスを持ち、楽しそうに飲んでいる。店の奥ではダーッを楽しむ英国風若者が、時折奇声を発し浮かれていた。僕も外国人バーテンダーに英語でギネスを注文し、カウンターの丸椅子に半分腰掛けながら、パブの中に充満する熱気と音楽をサカナに一人飲んでいた。
僕が二杯目のギネスを飲み干したころ、肩越しに僕の名前を呼ぶ者がいた。
振り返ると、なんとポールである。四年前ダブリンで世話になったポール・マナハンではないか。僕は驚嘆し、なぜ彼がここにいるのか繰り返し尋ねた。
「ポール、なぜ君はここにいるんだい?」
すると彼も面食らった様子で「キミオこそ、いつダブリンに戻って来たんだ?」と尋ね返すのである。酔いのせいもあってか、この不思議な出会いに僕は混乱し、当惑を隠せなかった。
ただ彼の話を冷静に聞くと、どうやらここは東京ではなくダブリンのようである。
何がなんだか分からないまま、とりあえず僕らは再会の喜びで乾杯をした。そして四年前の展覧会での出来事や、現在のアートシーンについて語り合った。すでにお互い五杯目のパインッグラスが空になっていた。終電近くとなり、僕らは名残惜しく別れることとなった。彼はまだ飲み足りないと見えて、六杯目のギネスを知り合いのアーティストと飲み始めていた。
僕は今、自分がどこにいるのか分からないまま、アイリッシュ・パブの扉を開け、外へ出た。

・・・・・・・そこはやはり、新宿のネオン街であった。ただ 見上げると霧雨がシトシトと冷たく舞っていた。まるで、アイルランドのように・・・・・・・。


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Date : 2007.04.22 Sun 00:35  記憶のかけら| コメント(0)|トラックバック(0)

  

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