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土屋公雄のブログ

「10冊の本とジャズ」
 昨夜代官山で一風変わったコンサートを聞いてきた。・・・・・外は12月の冷たい雨がそぼ降り、ただ、会場であるクラブ・ヒルサイドには、定員を超えるギャラリーが集まっていた。
 
 「目利きが語る:私の10冊」と題されたコンサート、演者はジャズ・ピアニストの山下洋輔さんである。山下さんと言えば今や作曲・演奏活動の他に、教育の現場や多数の著書を持つエッセイストとしても知られている。その彼が、これまで自分に影響を与えてきた「この10冊」を厳選し、それらの本にまつわる思いを語りながら即興的にピアノ演奏をしていくのだ。・・・・・なんとも贅沢なコンサートではないか。

 まずは夏目漱石の「坊ちゃん」に始まるのだが、話は漱石時代の話となり、僕も知らなかったが、山下さんの祖父は明治時代の建築家・山下啓次郎であり、東京駅を設計した辰野金吾の愛弟子として、当時国内の刑務所を幾つも設計された方であった。そんな話をされながら、おもむろに山下さんはピアノの前に座り「おじいさんの古時計」を弾き始めた。・・・・・続いて小泉文夫の「日本伝統音楽研究」、徳丸吉彦の「音楽とは何か」を引用し、クラッシックが決して音楽の基本ではなく、音楽の多様性やご自身がこれまで研究されてきたブルーノートに関して語られ、アドリブでブルースやジョージ・ガーシュインの「Rhapsody in Blue」を弾かれた。さらに玉木正之の「スポーツ解体新書」、大藪春彦「野獣死すべし」、リチャード・スターク「悪党パーカー」、司馬遼太郎「翔ぶが如く」、筒井康隆の「東海道戦争」、スポーツからハードボイルド、歴史小説、SFと、バラエティ豊かな本のアンサンブルは、そのまま彼の交友関係と人生の幅の広さにつながり、トークの合間に絶妙なタイミングで奏でられるジャージーなピアノは、円熟したミュージシャンの奥の深さを余すところなく感じさせた。特に僕自身興味を引かれた動物行動学者・日高敏隆「ネコはどうしてわがままか」では、そのトーク内容にも大いに笑わせて頂いたのだが、山下さんご自身も無類のネコ好き、山下家では三匹のネコを飼われているらしい。実は我が家にも四匹のネコがいるのだが、ネコの本性として、いつもは牙を剥くネコも、餌をもらう飼い主にはいつまでも子猫であるくだりには、まったく同感させられた。そしてトークの終わりにはオリジナルのトリプル・キャッツが熱く演奏された。コンサートも佳境に入った頃、最後の一冊であるフレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」が紹介された。ジャッカルは映画化もされなじみのある本だ。時代はアルジェリア戦争が終結の頃、フランス大統領ドゴール暗殺を引き受けたイギリス人殺し屋、暗号名は「ジャッカル」と、その暗殺を阻止せんと奮闘する仏警察の息詰まる死闘のスパイ小説である。この物語は実在のテロリストがモデルとされ、当時僕もドキドキしながら読んだものである。・・・・・そして山下さんが選択された曲は、フランスの巨匠モーリス・ラベェルの「ボレロ」。ジャズ・ピアニスト山下洋輔が放つ圧倒的で迫力とエネルギーに溢れた「ボレロ」は、会場をプレンティな音で満たしていた。

 ・・・・・アッという間の一時間半であった。
 コンサートには、知人の建築家やアーティスト、大使館関係者も来られており、終了後軽く挨拶をして会場を出た。師走の渋谷にはまだ冷たい雨が降っていた。ただ僕の心は、素敵なトークとパワフルな演奏のお陰で十分温まっていた。


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Date : 2010.12.24 Fri 11:58  未分類| コメント(-)|トラックバック(0)
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