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土屋公雄のブログ

ワースト・キャット・オブ・ザ・イヤー 
 かつて我が家には、「ディー」という名のメス猫がいた。彼女は18年という長寿をまっとうし、現在は僕のスタジオの森で安らかに眠っている。彼女の本名は「リチャード・ディーベンコン・土屋」。リチャード・ディーベンコンとは、僕の好きな米アーティストの名前をいただいたのだが、動物病院でちょっと名前が長すぎると顰蹙(ひんしゅく)を買い、「ディー」と短く改めた。彼女はキジトラ柄の美形で聡明な猫であり、うちの娘二人などは、赤ん坊の頃からディーに育てられたと言っても過言ではない。
 当時、僕自身は決して猫好きではなかったのだが、ある日突然我が家に迷い込んだ子猫が、そのまま18年間居座ることとなり、そのうち彼女は我が家で最も愛される存在となったのである。(彼女との思い出は数多く、いずれ記すことになるだろうが・・・・・。)

 彼女が大往生したのは2001年の5月。あまりの別れのつらさから、二度とペットを飼うのはよそうと家族会議で決め、以後約2年間、ペットとはまったく縁を持たなかった。ただ、家族間ではディーとの思い出話は尽きることがなく、さらにその頃中学3年生だった下の娘は、ペット・ロスの影響からか精神的にも不安定となり、登校拒否の日々が続くようになっていた。

 そして2003年の冬、事件は起こった・・・・・。

 冷たい雨のそぼ降る夜、僕がスタジオから自宅に帰ろうとする車のヘッドライトの先に、普段森の中では見ないダンボール箱が一個、放置されているではないか。僕は思わず車を降り、そのダンボールを確認に行くと、なんとその箱の中から生後10日も経たない子猫が4匹飛び出し、僕の足元にまとわり付いて来たのである。・・・・・僕もディーとの死別から二年間というもの、ペットとの関係を断ち、ようやく立ち直りかけていた時である。僕は足元にじゃれる子猫を一匹ずつ箱に戻し、とにかく何も見なかった振りをしながら後ずさりし車に戻ったのだ・・・・・が、しかし、この冷たい雨の中、無慈悲に捨てられ救いを求める子猫たち、さらに家には登校拒否の娘・・・・・。えーぃ ままよ。

 その夜我が家は、クリスマスとひな祭りが同時に来た騒ぎとなり、娘二人は可愛い・カワイイの連発、写真やビデオを撮りながら子猫の奪い合いが夜中まで続いた。
 
 生まれたばかりの子猫は、オスとメスの区別がつきにくい。てっきり我々はメスが3匹オス1匹だと思ったが、実はその逆のメス1匹のオス3匹と判明。でも可愛いからどちらでもいいかと言うことで、4匹の名前を付けることとなった。ディーの時もそうだったが、猫の命名権は拾ってきた僕にある。まず黒と茶色のブチ柄のメス猫は「クロード・モネ」、通称モネ。(ただ、彼女は我が家へ来て8ヵ月後に行方不明。なんと、去勢手術の3ヶ月後である。・・・・・近所のおばさんの証言によると、家の前に止めてあった宅急便のトラック荷台に乗っていたとの話、きっと彼女はそのままどこかに宅配されてしまったのであろう。) 次に、全身銀ネズで尻尾がエリンギの形をしたオス猫が「リチャード・ロング」、通称ロング。それから、赤トラで尻尾がスリコギ棒のような形をしたオス猫は「ウルフガング・ライプ」、通称ライプ。最後に、全身が黒の精悍な顔つきをしたオス猫は「ケルト」と命名され、全員我が家のメンバーとなった。・・・・・ついでに、実はその2ヵ月後にもう一匹、全身黒で首のところに薄っすら白いネックレスをしたメス猫が我が家にやって来た。彼女の名は、ただの「クロ」。従って、現在我が家には家出娘の「モネ」を除き、4匹の猫が悠々自適の生活を送っているのである。

 以前、三谷幸喜のエッセイ(朝日新聞)を読んだことがあるのだが、三谷家では、その年もっとも優秀だった飼い猫にキャット・オブ・ザ・イヤーの称号を与えるのだそうだ。賞の選考には、まず愛想、行儀、抱き心地の三部門から、その年パーフェクトな成績をおさめたものに称号が授与されるとのことである。実は、我が家にも以前より、ベスト賞ならぬワースト・キャットなるものがある。我が家での選考基準は、まず行儀、そして逃亡、迷惑、奉仕(これは、如何に飼い主への癒しとなっているかが問われる。)の四部門があり、この各部門で、一定の基準に達しない猫にはマイナス・ポイントが与えられ、ポイントの最も多くたまったものが、その年のワースト・キャット・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、半日エサ抜きとなるのである。

 まず「ロング」であるが、この猫は我が家に来た時から問題児であった。初日より僕の腕の中でオシッコを漏らし、一週間後には我が家で最も大きく高級なカーテンにロック・クライミングを先頭きって始めたのだ。さらにロングには特別な迷惑癖があり、何度叱られても、隣宅の二階ベランダ奥にもぐり込み、その後戻れなくなってしまうのである。そして最後は助けを求め鳴き続けるのだ。猫なのだから、自ら登ったものは自らが降りてくればいいだけの話である。彼には高所恐怖症でありながら高いところに上りたがる妙な悪癖がある。従って、毎回マイナス・ポイントは高いのだが、ロングの抱き心地はマズマズで、迷惑度を奉仕度でカバーしているといったところであろうか。

 次に「ライプ」である。彼は四匹の猫の中で最も神経質な猫であり、いつも自分の体を舐めている。ただ、あまりに舐めすぎ、おなかや足の部分は剥げた状態だ。もともとライプには食い意地の張ったところがあり、ここにきてエスカレートしているようで、多分毎食二匹分は食べているだろう、体重も有に10キロはあるメタボ猫だ。さらに家族の食事中に必ず誰かの膝の上に乗り、テーブルの上にアゴをのせ、何か欲しい・欲しいコールを始めるのだ。最近覚えたのだが、ひざの上で抱いていると10キロの巨体でイナバウアーを仕掛けてくるのだ。ただ彼の愛想は抜群で、以前予防注射を受けに掛かりつけの病院に行った時、その待合室にいた他の猫に比べ、彼が一番可愛かったことを覚えている。だからライプも行儀の悪さを奉仕度で十分補っている。

 しかし、オス猫はなんと厄介なのであろうか。去勢したはずの彼らだが、いまだに気に入らないことがあると当て付けなのか、壁や机にちょっとずつ小便をかけるのだ。猫とはいえ、いい加減野外と室内における社会的常識の違いは理解してもらいたいものだ。

 「ケルト」は三匹のオス猫の中で最も凛々しくダンディズムすら感じさせる猫である。食事の時も、他の猫の餌には興味を持たず、食事の量も腹八分目。間食はせず、常にウエートをベストな状態にコントロールし、飼い猫として5年が経つが、未だ精悍な顔つきと野生のスタイルをキープしながら、我が家では唯一自分が猫であることを自覚している猫である。僕としては、その猫としての自主性を忘れないケルトに陰ながら拍手をおくりつつ、ただそのクールな姿勢が行き過ぎると、時折他の猫との衝突の原因ともなり、多少協調性に欠けたところはあるが、今後も猫としての世界観をアーティスティックに貫いてもらいたいと願っている。

 最後になったが、メス猫の「クロ」は一番僕になついた猫である。容姿は町娘と言ったところであろうか、かつてのディーほど美形ではないが、メス猫としてのプライドを持ちつつ、生きることに非凡な才能を持った猫である。最近僕は仕事の関係から自宅で過ごすことが少ないのだが、そのわずかな自宅での時間、常に彼女は僕とからだの触れる場所を求めてくるのである。帰宅時などはどこからともなく現われ、僕の足元へ擦り寄リ甘くささやくのだ。そんな彼女をいとおしく思い、僕はついつい食事時に、彼女へ特別メニューを与えてしまい、家族からは非難をあびる結果となる。先日も僕が長期で家を空ける日の前日、その事を察してか、彼女はその夜戻ってこなかった・・・・・事件である。我が家に来て初めての外泊だ。・・・・・二日後彼女は無事帰宅したとの事、旅先に連絡があり、僕はホット胸を撫で下ろした次第だが、・・・・・外泊が僕への当て付けだとすれば、なかなかの演技派である。

 以上が我が家の愛すべき猫たちであるが、今年のワースト・キャット・オブ・ザ・イヤーにはどの猫が選ばれることやら、四匹とも十分に可能性を秘めているようだ。・・・・・つづく。


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Date : 2009.05.30 Sat 16:34  未分類| コメント(-)|トラックバック(0)