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土屋公雄のブログ

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静かに迫るカタストロフィ
僕の学生時代は、映画館もまだ入れ替え制ではなく、よく授業をさぼり場末の劇場で、洋画を飽きるまで観ていたものだ。
時折、むかし観た映画を無性に観たくなることがある。そんな時、映画のタイトル、監督、俳優の名前が出てこないと、ビデオ屋で借りる手がかりも無く、あきらめるのが常である。実は、今も観返して見たい映画があるのだが、30年以上前のフィルムであり、映画の題名も、監督や女優の名も忘れてしまった。
ただ、その映像の印象的な場面は覚えており、ストリーも、完全ではないが記憶にある。
・・・・・そして、この映画のエンディングは、静かなカタストロフィが心に迫るものであった。

陽気なアコーディオンの音楽が街角に流れ、セーヌ河畔の風景がモノクロで広がる・・・・・。戦争が終わって十数年の時が経ったのであろう、凱旋門上空を数機の戦闘機が飛行し、軍事パレードを見つめる群集が、シャンゼリーゼ通りを埋め尽くしていた。
・・・・・そう、確かこの映画はパリ祭のシーンで始まったのだ。

パリでうらぶれたカフェを営む中年の女は、日常をささやかながらも幸福に生きている。そんなある日、店の前をヨレヨレの軍服を着た浮浪者が通り、その男の横顔に、かつて戦争で行方不明となった夫の面影を見るのである。男は来る日も来る日も、そのカフェの前を通り、いつしかカフェの女と言葉を交わすようになる。ただ、その男には何の感情もなく、会話は日常の挨拶程度でしかない。しかし女の方は、次第にその男が戦時中、突然ナチスに連行され、強制収容所に送られた夫であることを確信していくのだ。ある日女は男の後をつけ、未だ戦争の傷跡を残す廃墟のような教会が、彼の住処であることを突き止める。
映像は繰り返しパリの廃墟を映し出す。戦争によって破壊された建物や都市。これらは、戦争によって引き裂かれた人間関係の悲劇や、個人の記憶の破壊を暗喩的に表現していたのだろう。
・・・・・男はすっかり過去の記憶を無くしている。女は、その男が自分の夫であることを固く信じ、何とか彼の記憶を回復させようとする。そして女は一縷の望みを持って、浮浪者の男を夕食に誘い、以前夫が好きだった料理を作り、もてなすのだが・・・・・。男はなんら表情も変えず、ひたすら食べるだけである。今、彼女の前には、何年も待ち続けた最愛の夫がいる。ただ、彼との会話は不毛でしかなく、彼女が彼の過去を問えば問うほど、男は戸惑いを見せ、時折、恐怖心すらあらわにし、自己を閉ざしていくのだった。
この映画には、血なまぐさい戦場の場面もなければ、人々が泣き叫ぶシーンも無い。もちろん反戦映画ではあるのだが、それ以上に、この二人の主人公が向き合う状況描写が悲しいほど生々しく、閉塞感や拒絶・絶望感といった、人間の不安心理が、映像の全篇を交錯していくのだ。

そしてこの映画で、最も僕の記憶に残るシーンとなるのだが・・・・・。
これほど戦争の爪跡を切なく、しかもドラマチックに表現した映画を、僕は他に知らなかった。
・・・・・食事の後、カフェの女は昔よく二人で聞いていた音楽を、ジュークボックスでかけるのである。そして二人は、その懐かしい曲でダンスをするのだが、女の手が彼の肩越しから後頭部に触れた瞬間、女に衝撃が走るのだ。男の後頭部には、ナチスの実験として付けられた脳死術のメスの傷跡が、痛々しく刻まれていたのだ・・・・・。込み上げる感情を必死に抑えながらダンスを続ける女、その彼女のリアルな演技は、今も強烈な記憶として残っている。

ただラストシーンは僕の記憶も曖昧だ。確か、そぼ降る雨の中、無言のままカフェを立ち去ろうとする記憶喪失の男の後姿に、女は思い余って彼の名を叫んだのだと思う。すると男は一瞬両手を上げ、立ち止まるのだが、その後すぐ脱兎の如く駆け出し、行く手にトラックのヘッドライトとキューブレイキの音が・・・・・。街角には重い沈黙。一瞬の出来事だったと記憶する。
今なお思い返しても、鳥肌の立つ戦慄と胸に迫る哀切、エンディングの静かなカタストロフィは心の奥に残っている。限られた登場人物によって、抑制された描写を淡々と演じきるその内容は、まさにフランス映画の深みと厚みを感じさせる一本だった。昨今の、映像が語りすぎる映画界にあっては、物足りなささえ感じる作品かもしれない。ただ、映像が創造の世界なら、これで十分である。

・・・・・どなたか、この映画の題名をご存知なら、教えて頂きたいのだが。


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Date : 2008.10.20 Mon 11:05  未分類| コメント(-)|トラックバック(-)
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