土屋公雄のブログ

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さまざまな出会いから 「殿敷 侃」
かつて広島に、殿敷侃(とのしき ただし)という自らの被爆体験をベースとし、表現活動を展開したアーティストがいた。殿敷は1942年広島市に生まれ、三歳のとき被爆した。父も原爆で亡くなり、母親も五年後に病死された。26歳で彼は一念発起し、当時勤めていた国鉄を退職し画家の道を志す。1975年には山口県長門市にスタジオを構え、作家自らの体験にもとづく細密な描写による平面作品を制作し、本格的作家活動を開始された。当時、絵画の世界では権威のあった安井賞にも79・80年と連続で入選され、徐々に中央の美術界にも名の知られる作家となって行った。

ここで僕と殿敷さんの出会いとなる1982年、彼の中で大きな転機が訪れる。
その年彼は、始めてのヨーロッパ旅行に出る。目的は四年に一度、ドイツのカッセルで開催される「ドクメンタ7」を見ることであった。そして、そこで彼はヨーゼフ・ボイスと出会うのである。
ドイツ旅行後、彼はロンドンに立ち寄り、数週間ロンドン市内のフラットに滞在され、その折僕は、彼と同じ広島出身である鈴木たかし(アーティスト)さんより紹介を受け、殿敷侃と出会うこととなる。

・・・・・あの日のことは今でも、昨日のことのように覚えている。
僕は鈴木さんに連れられ、三人はノッティング・ヒルのカフェで落ち合った。殿敷さんは慣れない旅の疲れからか、少々体調を崩されていた様子ではあったが、それでもカッセルでのドクメンタ展や、ボイスの作品・コンセプトに関し、また直接ボイスから一万円札にサインをもらった話など、今回の旅の出来事を、時折冗談を交えながら話してくれた。その後彼は、是非自分の作品を見てほしいからと言い、鈴木さんと僕を彼のフラットに誘ってくれた。
ワンベッドルームの部屋の隅には丸いテーブルがあり、そのテーブルの上には、十数枚のドローイングが描きかけと共に重ねられていた。僕がそれらの作品を興味ありげに覗き込むと、彼は「今回、海外アーティストの作品をたくさん見て来たから、自分も作品を作りたくなってね・・・・・。」と、照れ笑いしながら、一枚一枚の作品を丁寧に見せてくれた。さらに僕が、その無数のサインペンによって、黒く塗りつぶされた抽象的なドローイングのイメージについて質問すると、「これら一つ一つの黒い点は、僕の身体の中から出した灰だよ・・・・・。」と言い、・・・・・その後彼は、これまでの自分の生い立ち、被爆体験について話してくれたのだった。
別れ際殿敷さんは、「いつか一緒に展覧会をやろう・・・・・。」と、何気にかけてくれた言葉が心に残った。

82年、「ドクメンタ7」でのボイスの作品に衝撃を受けて以降の殿敷の作品は大きく変化する。翌年83年には、山口県美術展で4トンの廃品・廃材・タイヤ等を、「黒の反逆集団」と題し美術館内にぶちまけ、環境問題・「ヒロシマ」を前面に出す、より社会派的な表現活動となり、その後の栃木県立美術館や佐賀町エキジビット・スペースなどでも、現代社会のかかえる問題に対し、強烈なメッセージでインスタレーションを展開された。
1988年、彼は岩国の錦帯橋で、僕や柳幸典、千崎千恵夫、スターン・アンダーソンらのメンバーで、「環境アート・プロジェクト」を企画。当時としては画期的であった、市民参加型の大型野外美術展となり、多いに美術界の話題となった。ただその頃から、彼の体調は思わしくなかったようで、残された時間に対する、あせりのようなものを感じていたのかも知れない。時として彼は、激情する姿を表に出し始めていた。

敢えてここで、殿敷侃と僕との出会いが運命的であったと思えたのは、彼が享年50歳、肝臓がんで他界される最後の展覧会となった、山口県宇部市の「第14回現代日本彫刻展」で、彼と僕は共に招待出品することとなる。
そこでも彼は、車椅子から指示を出し、18本の立ち木にタイヤ800個を吊り下げるインスタレーション「TYRE BEARING TREE」を発表。遺作となる最後の仕事まで、彼は社会に対し批判的・挑発的メッセージを発し続けたのである。

82年にロンドンで出会ってから、92年の別れまでの10年間。
僕は殿敷という一人のアーティストの、不条理に立ち向かう壮絶な戦いを見たのだった。
殿敷侃、決して忘れてはならない作家である。


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Date : 2007.11.23 Fri 15:01  未分類| コメント(0)|トラックバック(0)
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