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土屋公雄のブログ

メキシコ通りの国立図書館
僕の好きな作家に、南米のホルヘ・ルイス・ボルヘスがいる。
彼との出会いは、学生時代に読んだ短編集「砂の本」。たしか集英社から出ていた「現代の世界文学」、篠田一士訳のものだったと記憶する。
彼の小説は、そのほとんどが幻想的で、時間の迷路、あるいは神秘的な時間世界に、我われ読者を引きずりこむ魅力がある。
短編小説「砂の本」では、・・・・・在る日の夕暮れ、突然主人公の老人宅に、見ず知らずの男が、不思議な聖書を売りつけに来るのだ。
見知らぬ男はおもむろにスーツケースを開け、中から布製の聖書を取りだし、「この聖書は、インドの砂漠で手に入れたものです。よくご覧ください。もう二度と見られませんよ・・・・・。」 さらに男は、・・・・・「この本は砂の本です。始まりもなければ、終わりもない、一度見たページには二度と戻れず、最後のページをめくろうとしても、次から次へと湧いてくる無限のページで、決して読み終えることの出来ない聖書なのです。どうかあなたの宝物にしてください・・・・・。」

・・・・・そして老人は、この不思議な本を手に入れるのだが。

最初のうちは老人も、エンドレスのページをもつ聖書を面白がり、宝物のよう大切にしていたのだが、時間が経つにつれ、その本が怪物のようにも思え恐ろしくなって、その本を処分することを決意する。・・・・・そして彼は、一枚の葉を隠す最上の場所が森の中であるように、かつて彼が勤めていたメキシコ通りの国立図書館に行き、そっと書籍棚の中に「砂の本」を隠すのである。・・・・・最後に彼は、「これで、少し気が楽になった。もう二度とあの本には出会いたくない。」と、呟きながらストーリーは終わって行くのだ。

いつの日か僕に、ブエノスアイレスへ行く機会があれば、ぜひメキシコ通りの国立図書館へ行ってみたいと思っている。・・・・・どこかにきっと、あの老人が隠した不思議な「砂の本」があるのかも知れない。


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Date : 2007.09.23 Sun 11:35  未分類| コメント(0)|トラックバック(1)
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